IEEE 1901準拠HD-PLC 4
IEEE 1901a準拠HD-PLC Quatro Core技術とその活用分野
1)国際標準規格IEEE 1901a
2019年3月21日ドイツで開催された同協会の理事会にて、当社が提唱するIoT向けの次世代PLC技術HD-PLC Quatro Coreが国際標準規格IEEE 1901aとして承認されました。
本規格は、IoT関連サービスに求められる様々な要求に柔軟に対応することができます。IEEE 1901aは、「IoT(Internet of Things)PLC」と称する通信規格で、周波数帯域を利用状況に応じて制御することにより、通信の長距離化と高速化を切り替える機能を持つ、スケーラブルな通信が特長です。
2)HD-PLC Quatro Core技術概要
本技術は、既にIEEE 1901規格として採用されているパナソニック社独自のHD-PLC(表1)の基本技術である「Wavelet OFDM方式」(以下、標準モード)をベースに、新たに以下の機能を追加しています。(表2)
IEEE 1901準拠 HD-PLC 3 Complete |
IEEE 1901a準拠 HD-PLC Quatro Core |
|
---|---|---|
OFDMのベースキャリア | Wavelet | Wavelet |
使用周波数帯 [MHz] | 2~28 | 2~100 |
最大PHYレート [Mbps] | 240 | 1,000 |
IEEE 1901 共存信号(ISP) | 完全準拠 | 完全準拠 |
HD-PLCファミリー間 通信互換性 |
第1、2世代HD-PLCと通信互換 | 標準モード動作時はHD-PLC 3 Complete同等の互換を有する |
表2 HD-PLC Quatro Core技術の主な仕様
特長
- 4K/8K映像が伝送可能な最大通信速度1Gbpsの高速通信
- 用途に応じてモード切替が可能
- 各モード内に複数通信チャネルを形成可能(最大4ch)
仕様 | モード | 最大通信速度(注1) | 伝送路 | |
---|---|---|---|---|
必須仕様 | 標準モード | 250Mbps | 電力線/制御線利用 | |
1/2倍 | 125Mbps | 電力線/制御線利用 | ||
1/4倍 | 62.5Mbps | 電力線/制御線利用 | ||
オプション仕様 | 2倍モード | 500Mbps | 同軸線/制御線利用 | |
1/2倍 | 250Mbps | 電力線/制御線利用 | ||
1/4倍 | 125Mbps | 電力線/制御線利用 | ||
4倍モード | 1Gbps | 同軸線利用 | ||
1/2倍 | 500Mbps | 同軸線/制御線利用 | ||
1/4倍 | 250Mbps | 電力線/制御線利用 |
- 各モード内に複数通信チャネルを形成可能
- 主に電力線または制御線を利用する場合、サンプリングレートは標準モードと変えずにサブキャリア間隔を最小1/4倍とすることで、標準モードの2倍程度(最大通信距離は通信環境や線材で異なる)へ通信距離を拡大
- 同軸線の利用を前提とする場合、サンプリングレートを標準モードの最大4倍としサブキャリア間隔を4倍まで広げることで、最大1Gbpsの通信速度を実現
上記のように、伝送路環境に合わせてモードを切り換えることにより、ユーザー毎のニーズにも柔軟に対応することができ、あらゆる場面での本技術の活用が期待できます。なお、IEEE 1901aは標準モードを必須仕様とし、2倍/4倍モードはオプション対応となっています。
図1に各モードとChannel ID(通信帯域)の関係を示しています。Channel IDとは通信に利用する周波数帯域に番号付けしたものです。よって、同じChannel IDを使用していればモードが異なっている場合でも通信互換性は確保されるため、相互通信が可能です。チャネルIDは、全部で15種類存在します。
電力線など実環境で利用されるChannel IDの決定方法の一例としては、認証時にHD-PLC(IEEE 1901)と互換性のあるChannel ID:x-1を基準とし、通信可能な他のChannel IDを調査して、最も安定かつ高速通信が可能なChannel IDを選択します。
図1 HD-PLC Quatro Coreにおける各モードとChannel ID(通信帯域)
3)HD-PLC用マルチホップ技術概要
HD-PLCに適用しているマルチホップ技術は、国際標準規格ITU-T G.9905で採用されたプロトコル(CMSR: Centralized Metric based source Routing)技術を応用したものです。この技術により、1つの端末から他の複数の端末へデータを次々に飛び越えホップさせることで、通信距離を大幅に延ばす(例えば,数km)ことができます。(ただし、最長通信距離は通信環境条件や線材により異なります)。また、Master 1台あたりTerminal最大1024台の管理が可能です。
加えて、本技術にはルーティング負荷を軽減し、伝送特性の変動に対応して通信ルート探索を自動で行う機能を備えています。これにより、大規模システムの設置が容易化できるほか、Terminalに故障が発生した場合でも通信ルートを自動変更することが可能です。
図2にルート選択イメージをしています。まずは、受信制御情報を基に仮ルートコストの低い順にルート候補を選定します(ここでは上位2つ)。次に、送信時のリンクコストを求め、双方向のリンクコストのうち大きい方を使用してルートコストを計算し、最終的にルートコストの最も低いルート(図2ではE)を経由するルートを選択します。
この技術をHD-PLC Quatro Coreに適用すれば,無線通信が困難なビルのフロア間においても縦幹線など既設の電力線を利用して長距離広範囲にネットワークインフラを構築することができるようになります。
図2 ルート選択イメージ
4)活用分野
IEEE 1901aに準拠したHD-PLC Quatro Coreを用いることで、図3に示すようなIoT向けソリューションへの適応がより容易になっていくものと確信しています。
高速化では、4K/8K関連のアプリへの適用が有望視されており、監視カメラ、無料通信のための簡便なWiFi機器の設置、既設建造物内でのネットワークのIP化やセキュリティ強化などにも有効です。長距離化では、スマートメーターを含む電力線を用いた各種エネルギーマネジメントへの適用、ストリートライトの状態監視や機器故障検知などの機能や空調/照明制御の高度化にも有効です。
上記のように、本技術を活用することで、これまでのHD-PLCをさらに進化させ、あらゆる事業分野への展開が可能です。
HD-PLC Quatro Coreは、住空間における通信基盤技術の一つとしても位置づけており、この分野での利用も期待されています。
図3 HD-PLC Quatro Coreが目指すIoT World "Just Plug-in"
ホワイトペーパー
- HD-PLC Quatro Core ホワイトペーパー (PDFでひらきます)
参考文献
(1): https://standards.ieee.org/standard/1901-2010.html
- 注1:最大通信速度は、実装仕様を基に算出。
第3世代では、上記の値にマージンを持たせて240[Mbps]としていた。