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HD-PLCの技術概要

HD-PLCの物理層について

1. 周波数利用効率が高い、Wavelet OFDM方式を採用

高速電力線通信HD-PLCは、周波数利用効率が高い「Wavelet OFDM(Wavelet Orthogonal Frequency Division Multiplexing)」(注1)方式を採用しています。
本方式は、外部回路なしで深いノッチを形成可能(図1)であり、国際標準規格 IEEE 1901 にも採用された技術です。

2. Wavelet OFDM方式の特徴

  • ガードインターバル(Guard Interval、以下GI)を必要とせず、伝送路の状態に合わせてサブキャリアごとに最適な変調を行っているため、高効率な伝送が可能です。
  • フレキシブルなノッチ形成技術を採用。Wavelet OFDMは、各サブキャリアのサイドローブのレベルが低く、最小2本のサブキャリアを不使用とすることで、任意の周波数帯域内に35dB以上のノッチを形成可能です。この技術により、短波放送やアマチュア無線など、同じ周波数帯域を使用する既存システムへの干渉を抑え、共存を可能としています。
  • 既存システムからの狭帯域干渉が存在した場合、その影響は数本のサブキャリアのみに抑えることが可能であり、キャリア間干渉(Inter-Carrier Interference、以下ICI)も低く抑えることができます。
  • サブキャリアごとのパルス振幅変調(PAM)において、最大32PAMまでの多値化を採用。
図1.Wavelet-OFDM特性波形

図1. Wavelet OFDMとFFT-Based OFDMのスペクトル比較

3. HD-PLC技術の変遷

※左右にフリックしてご覧いただけます。
商用化時期 世代 最大物理速度 使用周波数 技術仕様
2006年〜 第1世代 190Mbps 4MHz〜28MHz HD-PLC
2009年〜 第2世代 210Mbps 2MHz〜28MHz HD-PLC
2013年〜 第3世代 240Mbps 2MHz〜28MHz HD-PLC3 Complete
HD-PLC3 Muti-hop
HD-PLC3 Inside
2022年〜 第4世代 1Gbps 2MHz〜100MHz HD-PLC4

表1. HD-PLC技術の変遷

  • 第1世代は、4~28MHzの通信帯域を利用した国内初の200Mbpsクラス高速電力線通信として開発されました。
  • 第2世代では、宅内での接続性を向上させるために、通信帯域を2~28MHzに拡張し、送信出力も見直しました(従来比4.6倍)。さらに、接続端末16台までは衝突なしに通信が可能となるDVTP(Dynamic Virtual Token Passing)技術を開発し、通信性能を向上させました。
  • 第3世代では、最大多値数を16PAMから32PAMに拡張することで、最大物理速度を1.25倍に向上させ、最大240Mbpsの高速通信を実現しました。加えて、誤り訂正技術にLDPC-CCを採用することで、同じ符号化率(1/2~4/5)の連接符号(リードソロモン+畳み込み:RS+CC)の場合と比較し、カバレッジを大きく向上させました。

これらの改良により、宅内エリアカバー率は、飛躍的に向上していきました。(表2:HD-PLC技術進化と特徴)

※左右にフリックしてご覧いただけます。
名称 第1世代 第2世代 第3世代 第4世代
HD-PLC HD-PLC HD-PLC3
Complete
HD-PLC3
Multi-hop
HD-PLC4
使用帯域
(MHz)
4~28 2~28 2~28 2~28 2~100
最大速度
(PHY)
190Mbps 210Mbps 240Mbps 240Mbps 1Gbps
(4倍モード)
特徴・機能
  • イーサネットI/F
  • 簡単親子設定
  • 簡易速度表示
  • 接続台数16台
  • パケット衝突回避機能(DVTP)
  • 接続台数128台
  • LDPC-CC搭載
  • 32PAM対応
  • 欧州CENELEC規格の動的ノッチ機能
  • 接続台数1024台
  • ホップ数10段
  • 通信距離数kmへ拡張
  • HD-PLC3を標準モードとし、周波数帯域を1/4、1/2、2、4倍に切替可能
  • 周波数帯域に応じて通信速度と通信距離を拡張可能
備考
  • 国内初200Mbpsクラス
    宅内用アダプター
  • IEEE 1901
    準拠
  • IEEE 1901
    準拠
  • ITU-T G.9905
    準拠
  • IEEE 1901a
    準拠

表2.HD-PLC技術進化と特徴

4. 使用周波数について

HD-PLCは、国内において高速電力線通信の使用帯域の上限である30MHzではなく、28MHzを上限として使用しています。この理由は、28MHz~30MHzの帯域内の多くがアマチュア無線帯域であるため、高速電力通信推進協議会(PLC-J)のガイドラインに準拠し、使用除外としています。

5. 分電盤内の異相超えが可能

HD-PLCは、第3世代において同相関係(例:L1-N相同士)にあるコンセント間だけでなく、異相関係(例:L1-N相とL2-N相)にあるコンセント間の接続性も高まっています。加えて、L1-N相またはL2-N相の100Vタイプのブレーカと、L1-L2相の200Vタイプのブレーカ間においても通信性能が向上しています。

通信性能向上の要因は、先述の通り、第3世代における出力電力(図2)および耐ノイズ性(図3)の向上になります。

図2.国内出力電力スペクトラム(PSD)

図2. 国内の周波数スペクトラム(PSD)

図3.速度と信号減衰(耐ノイズ静特性)

図3. 信号減衰と通信速度の関係

HD-PLCのMAC(Media Access Control)層について

HD-PLC3 Completeでは、親機がビーコンフレームと呼ばれる制御フレームをネットワーク内の全端末へ定期的にブロードキャストする方式を採用しており、QoS(Quality of Service)など各種制御のための管理を行っています。

アクセス制御には、CMSA/CA(Carrier Sense Multiple Access / Collision Avoidance)とDVTPを用いており、独自方式であるDVTPでは、親機が子機へ動的に送信権を付与することで、パケットの衝突が発生しないアクセスを実現しています(16台まで)。

また、伝送効率を高めるサブフレーム連結機能や、暗号鍵の定期的な更新機能も搭載しています。

ノイズ耐性向上技術

電力線では伝送路特性が複雑なものとなるため、伝送路推定技術により、通信の高速化・安定化を実現します。本技術により、伝送路のS/N比(信号対雑音比)に応じて、サブキャリアごとの情報量を最適化して伝送することが可能です。

電力線上のノイズには、長期的な変動を与えるもの(電子レンジなど)と、短期的な変動を与えるもの(ACアダプターなど)があります。本技術では、これらの変動を学習しながら安定した伝送を行うことが可能です。

HD-PLC3 Completeでは、具体的に以下の技術を搭載しています。

1. 誤り訂正技術

ノイズ耐性向上のため、誤り訂正能力の高いLDPC-CCを採用し、劣悪な電力線伝送路においても強固な通信を可能としています。

2. ダイバシティ技術

劣悪な電力線伝送路環境を考慮し、同じデータを複数本のサブキャリアに載せて伝送するダイバシティモードを搭載しています。連接符号(リードソロモン+畳み込み)と2PAMの組合せを基本とした上で、LDPC-CCおよび4PAMを使用し高速化に対応したモードも備えています。

3. 伝送路変動耐性技術

電力線伝送路は、接続される機器の影響により、伝送路のインピーダンスが変化します。インピーダンスの変動により受信レベルも変わるため、伝送路推定を再度行う必要があります。HD-PLCでは、伝送路の変動を検出するためのパラメータを用意し、それらを監視しながら伝送路推定を行うことで、伝送路変動に対する耐性を強化する仕組みを備えています。

高度なセキュリティと簡単設定

HD-PLCは、簡単設定の機能を備えており、電源に挿すだけで通信が可能です。

高度な暗号化技術(AES 128bit)(注2)も搭載しているため、機器を互いの信号を観測可能なコンセントに挿し、両方のSET UPボタンを押すだけで、安全に接続認証を完了できるようになっています。

1. データの暗号化と伝送路推定

HD-PLCでは、データの暗号化に無線LANと同じAES方式(AES 128bit)を用いており、加えて、独自の伝送路推定機能により、セキュリティを強化しています。

伝送路推定では、通信を行う前に伝送路の特性を評価し、その結果に応じて各サブキャリアにおける情報量を最適化したトーンマップを作成します。このトーンマップは、通信相手ごとに異なるマップとなり、端末間でこの情報を交換・共有することで双方向の通信が可能となります。

伝送路の状態はコンセント毎に異なるため、各コンセントで得られるトーンマップも異なります。従って、異なるコンセントに端末を接続し、既に設置されている別の端末に成りすますことが非常に困難となりますので、高いセキュリティを持つことになります。

2. 動的鍵更新機能

HD-PLCでは、親機がデータ暗号化用の鍵を管理し、認証に成功した端末に鍵を配布します。さらに、認証後に定期的な鍵の更新・配布を行うことでセキュリティを強化しています。

3. 簡単設定

簡単設定は、ユーザーによる認証鍵の入力が不要で、端末の登録・認証を行う機能です。親機は認証が成功した端末との間でデータ暗号化用の鍵を安全に共有します。

簡易通信速度測定機能

本機能により、ユーザーが簡単にコンセントペアの通信状態を把握することが可能です。親子登録された子機をコンセントに接続し、端末のSET UPボタンを押すことで、親機との間で通信速度を測定し、3段階のLEDで表示します。

HD-PLC3 マルチホップとHD-PLC4

B2B用途では、ビルや工場などの大規模な建屋において、長距離かつ広範囲のネットワークを構築する必要があります。HD-PLC3 マルチホップでは、データを順次中継することで1対1では届かない場所にある端末と通信することが可能です。(最大10ホップ、数kmの伝送が可能)

さらに、概ね30秒毎に各端末間の通信状態をチェックし、常に最適な経路を選択していますので、一時的にどこかの経路が使えなくなったとしても、他の経路を使ってデータを送ることが可能です。

第4世代のHD-PLC4では、端末間の通信距離を延ばすことで、さらなる長距離化・広範囲化を実現すると共に、端末の設置場所の自由度を高めることも可能である。HD-PLC4の詳細は、最新技術のページを参照。

  • 注1.
    Wavelet OFDM方式
    周波数利用効率が高い直交周波数分割多重(Orthogonal Frequency Division Multiplexing、OFDM)方式において、各サブキャリアの直交化にWavelet変換を適用した技術。周波数領域および時間領域に直交性を備えた結果、冗長信号を付与することなく各サブキャリアのサイドローブレベルを低減しています。
  • 注2.
    AES(Advanced Encryption Standard)
    米国国立標準技術研究所(NIST)によって選定された、標準暗号化方式。

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